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執筆者の写真Rosenfarbe Holistic Animal Works

ホリスティックケアについて ②


第2回 愛情について    


 今回は私たちが日常ごく当たり前にしていることを見直すということで、私にとってのホリスティック・ケアの出発点でもある経験をご紹介したいと思います。


 私が住んでいたのはウィスバーデンという、フランクフルト空港のあるヘッセン州の古い首都でした。落ち着いていながらも賑やかな町の大通りには、大きな街路樹のもとに所々ベンチがある歩道が真ん中にありました。

 ある日アパートメントの窓から眼下を何気なく見下ろしていると、おばあさんとシェパードがゆっくりと散歩をしている姿が目に入りました。その姿はドイツではごくありふれた日常的なものでしたが、おばあさんとおばあさんをいたわるように見守りながらゆっくり歩くシェパードとの間に見えない絆がはっきりと感じられたのです。私はショックを受けました。「今まで私が動物たちとの間に築いていたと思っていた信頼関係、愛情は何だったのだろう?」と、目から鱗が落ちた思いがしました。犬やネコ、鳥たちと一緒に育ち、歩く前から馬に乗っていた私は人間よりも動物たちとの自然な親近感にそれまで疑いを抱いたことはなかったのですが、それが根底から覆されたように感じました。

それからは意識的に人と人、人と動物たちとの関わりを観るようになりました。そんなある日またカルチャーショックを受けることがやってきたのです。


 アルバイトで12歳の女の子と13歳の男の子の兄弟に家庭教師で乗馬を教えていたのですが、馬屋の掃除の仕方から日常のケアの仕方、乗り方すべてを教えながら英語がまだ分からない彼らとドイツ語で話すのが私の勉強でもありました。時には末っ子の3歳の女の子を片腕に抱きながら、外乗(外歩き)がてらの散歩をしたりと、彼らと共に過ごす時は柔らかく笑いの絶えない心温まる楽しい時間でした。

家の庭に子供たちの父親が素敵な馬屋を建ててくれたので、子供たちは毎日交代で馬(マクセル)の小屋の掃除をすることになっていたのです。ある日レッスンに行くと馬屋の掃除が終わっていませんでした。掃除が終わってからレッスンというのが約束事だったので「今日は誰の当番なの?」と聞くとミヒャエル(男の子)が「僕だよ」と答えます。「掃除をしていないようだけれど、どうしたの?レッスンはどうする?」と聞くと「今日はサッカーの練習で疲れちゃって掃除はやりたくないんだ。でもマクセルには乗りたい」と13歳の男の子としてはごく当たり前の答えでした。さてこれは…と思い、ミヒャエルを側に呼んで一緒に草の上に腰を下ろしました。「ミヒャエル、君の部屋は誰が掃除をするの?(私)」「ママだよ(ミヒャエル)」「ママはなぜミヒャエルの部屋を掃除してくれるのかな?(私)」「・・・(ミヒャエル)」しばらくの沈黙の後、急にミヒャエルの顔がパッと明るくなって勢い良く立ち上がった途端「ママは僕を愛してくれているから掃除してくれるんだよね!僕もマクセルを愛してるから掃除してくる!!」と元気よく言い残し、馬屋に飛んで行って「ごめんね、マクセル!」と馬にキスをしてから、嬉しそうに話しかけながら掃除を始めました。私は心から嬉しく思うと同時に、母親と子どもとの間の確固たる愛情に感銘を受けました。その時ミヒャエルにお説教めいた話しをする必要は全くなく、全て彼が自分で気づいたのです。

その後彼が馬屋の掃除をさぼったことは一度もありませんでした。このことから学んだのは私の方でした。義務感や責任感から動物や子どもの世話をしがちな日本の風潮の中にいた私に、建前や理屈などを吹き飛ばして、説明せずとも相手がしっかりと愛情を感じてくれるようなケアができていることは素晴らしいことだと思います。私もミヒャエルの母親のように、心から自分の時間を相手のために使うということをしっかりと刻み込んでやっていこうと、その時心に誓いました。


 動物や子供はとても敏感に、接している相手の心の状態を察知します。何かを考えながら、時間を気にしながらのケアは深いところで相手の心と信頼関係を傷つけます。

「愛とはそのものにかける時間である」との言葉通り、愛情は心をこめた時間と行動で示すものなのではないでしょうか。先の心配や後悔、言い訳や文句、義務や責任など理屈(頭)は脇において、心から「その瞬間に存在すること」「相手に100%で向き合うこと」は、何にもまして「愛」そのものを表すこと、相手の存在への敬意と尊重を伝えることなのだとこのことから学び、ホリスティック・ケアの基盤としてみなさんにもお伝えしています。


 これから冬にむけて外での活動も犬たちには楽しくお互いに身体も温まるものですが、家の中で飼い主さんが自分自身としっかり向き合いながら犬と向き合うこともまた、心からほかほかと温かい関係を楽しめる大切な時間になり、お互いの知らなかった側面を発見できることを確信しています。


この原稿を読むための時間を下さった貴方に

愛と感謝をこめて・・・

ホリスティック・ケア・プラクティショナー 仲澤真里



仲澤真里さん


1984年、玉川大学農学部卒業、農学士。幼少から犬・馬と共に育つ。1990年、渡独。犬の基礎訓練、アジリティー、トリミングを学ぶ傍ら家庭教師で子供に馬の飼養管理と騎乗を教える。帰国後、Holistic Animal Care Centre設立。同センターオフィスHARP代表。ペットシッター、パピートレーニング、しつけインストラクター、問題行動カウンセラー。動物専門学校にて犬の行動学、ドッグトレーナーコース、犬・馬のナチュラルケア講義担当。アロマ・ホリスティック・タッチテラピープラクティショナー。日本動物福祉協会会員、一級愛玩動物飼養管理士、ペット栄養管理士。欧米のナチュラルケア関連の執筆および翻訳、監修・監訳を手がけ、多数のセミナー&ワークショップ活動を開催。豊富な知識と経験、実績を活かしながら、様々な視点から「人と動物、人と人の絆の大切さ」を啓蒙することをライフワークとしている。


「ビアンジェ」2007年冬号掲載文転載

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